萬屋 希実
manya nozomi東京都
東京都
企業イベントや式典、舞台などで、大型作品をその場で書き上げる書道パフォーマンスを行っています。単なる「文字を書く」表現ではなく、空間全体の空気や感情を動かすライブ表現として活動しています。
“整う時間”をテーマに、書道が持つ"書くマインドフルネス"の力を体感していただく書道教室を展開しています。経営者や大人世代を中心に、感情や思考を整理し、本来の自分へ戻る時間を提供しています。
小学校一年生から、習い事として書道を続けていた。
けれど、その頃は「将来は書道家になりたい」と思っていたわけではない。ただ少し得意なもの、という感覚だった。
もともとは恥ずかしがり屋な性格で、人前に立つタイプではなかった。どちらかといえば、自分から前へ出るよりも、周囲を見ながら静かに過ごすことが多かった。
そんな幼少期の中で、唯一長く続いていたのが“書”だった。
まだこの頃は、自分の人生が「書」によって大きく変わっていくとは想像していなかった。
転機になったのは中学生時代だった。
あえて一番厳しいと言われる女子バレー部へ入部。髪は男子のように短く、毎月バリカンで整えるほどの体育会系の環境だった。
しかし、もともと恥ずかしがり屋な性格だったこともあり、部活の輪になじめなかった。
先輩たちからは「空気みたい」と言われ、「空気のクウちゃん」と呼ばれることもあった。
自分が話すと場がしらける。みんなは前を歩き、自分だけ後ろを一人で歩く。そんな日々の中で、「どうしたら仲間に入れるんだろう」「どうしたら面白い人になれるんだろう」と、ずっと考え続けていた。
静かな少女だった。でも、その内側には、「このままでは終わりたくない」という小さな炎が、確かに燃え始めていた。
中学時代、忘れられない出来事がある。
ある日、先輩の教室に一人で呼び出された。「おもしろくない後輩がいるから来い」と言われ、一発ギャグをやれと命じられた。
人生で一番怖かった瞬間だった。
逃げることもできず、半泣きになりながら、一発ギャグを必死に連発した。すると最後、教室中が“ドッ”と湧いた。
その瞬間、初めて知った感覚があった。
「人の感情を動かせる」
「大勢を笑顔にできる」
それは恐怖の先にあった、人生で初めての高揚感だった。
後に書道パフォーマンスで多くの人を魅了していく原点は、実はこの中学時代の経験にあったのかもしれない。
高校へ進学しても、自分に自信が持てるようにはならなかった。
女子特有のヒエラルキーの中で、「自分はずっと底辺側だ」と感じながら過ごしていた。
けれど、その一方で、心の奥には負けたくない気持ちが強く残っていた。
学生時代の世界では勝てない。
だったら、社会に出てから勝負しよう。
そんな思いが芽生え始める。
そして高校生の頃、ある未来を想像していた。
“スクールカースト上位だった子たちが、大人になってテレビをつけた時、自分がそこに映っていたら、それが自分の勝ち方なんじゃないか。”
その発想は、単なる承認欲求ではなく、「自分の人生を自分で逆転させたい」という強い意志だった。
大学進学後、その思いはより明確になっていく。
経営学部へ進み、「いつか女社長になる」という目標を抱くようになった。
大学一年生の頃には、実際に活躍する女性経営者たちと出会う機会にも恵まれた。キラキラと自分らしく働く姿に、大きな刺激を受けた。
一方で、海外研修で訪れた韓国・アシアナ航空での経験は、自分の価値観をより明確にした。
化粧品、メイク、立ち振る舞い――すべてが細かく統一され、「個性を出してはいけない」という空気に違和感を覚えた。
“私は、誰かに決められた型にはまりたいわけじゃない。”
そう気づいたことで、「自分自身を表現できる生き方」をより強く求めるようになっていった。
大学卒業後は、すぐに起業するのではなく、まず社会経験を積む道を選んだ。
就職したのは、超体育会系の営業会社。
毎日テレアポを行い、数字を追い、結果で評価される世界だった。
その会社では、年に一度、全社員約2000人が集まる大規模な表彰式が開催されていた。表彰者はレッドカーペットを歩き、スポットライトを浴びながらスピーチをする。
その瞬間を見た時、「絶対にあそこを歩く」と決意した。
しかし新卒配属は営業ではなく事務職だった。レッドカーペットを歩けるのは営業成績を残した人だけ。そこで役員へ直談判し、自ら営業部署への異動を願い出た。
そして営業二年目、ついに目標だったレッドカーペットを歩く。
スポットライト。
大勢の視線。
壇上でのスピーチ。
それは、高校時代から思い描いていた“逆転”の瞬間でもあった。
営業会社で目標を達成した後、不思議なことに心は燃え尽きていた。
昇進したいわけでもない。
お金だけを求めているわけでもない。
“じゃあ、自分は本当は何をしたいんだろう?”
その問いに向き合った時、自然と浮かんできたのが、幼い頃から続けてきた「書道」だった。
会社を辞めた後、すぐに個人事業主として独立。
最初から明確な経営ノウハウがあったわけではない。それでも覚悟だけはあった。
小学校から続けてきた書道。
中学時代に知った「人の感情を動かす喜び」。
営業時代に学んだ「人前に立つ覚悟」。
それらすべてが、今の書道パフォーマンスへとつながっていった。
ただ文字を書くのではない。
空間をつくり、人の感情を動かし、その場の空気を変える。
かつて「空気みたい」と呼ばれていた少女は、今では“空気を変える側”として、多くの人の前に立っている。
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