会社員という安定を手放し、起業の道へ進むと決めた「決定的な瞬間」はどこだったのでしょうか?
実は、大きなきっかけは「コロナ禍での無力感」と「一人の女性経営者との出会い」でした。
2020年、コロナウイルスが流行して結婚式やお葬式が次々と中止になり、行き場を失ったお花が大量に廃棄されるのを目の当たりにしました。 「このままだと、お花の農家さんが潰れてしまう」。 副業でお花に関わっていただけの私でしたが、どうしても何かしたくて、お花業界を救うためのビジネスコンテスト(ピッチ大会)に出場したんです。
そこで、私の人生を変える出会いがありました。 審査員や参加者の中に、自分の好きなことを仕事にして、キラキラと楽しそうに働いている女性経営者の方がいらっしゃったんです。
それまで私は、「仕事=我慢するもの」「組織の中で役割を果たすもの」だと思っていました。でも、彼女は違った。「あ、こんな風に自由に、楽しそうに生きていいんだ」って。 目の前に実在する彼女の姿を見て初めて、「私にもできるかもしれない」という希望が、確信に変わった瞬間でした。
「誰かの役に立ちたい」という想いと、「あんな風に生きたい」という憧れ。この2つが重なった時、会社員を卒業する覚悟が決まりました。
ずっとお花の世界にいた川淵さんが、なぜ在庫リスクのある「プロダクト(香り)」を選んだのですか?
お花って、本当に美しいですよね。でも、生花は1週間もすれば姿を変え、枯れてしまいます。お花の講師をしていた時、その「儚さ」を何度も見送ってきました。
だからこそ、「形として残り、私の代わりに想いを伝え続けてくれるもの」への憧れがずっとあったんです。
プロダクトは、私の手元を離れても、誰かのカバンの中や、お部屋にずっと居てくれる。言ってみれば、「私の分身」みたいなものなんです。 私が直接声をかけられなくても、その香りがふとした瞬間に誰かを励ましたり、癒やしたりしてくれる。それって、すごく素敵なことだなと思って。
「枯れない花」を作るような気持ちで、この『YUME to MOMO』という香りを生み出しました。だから、容器の紙の質感ひとつ、香りのグラデーションひとつ、妥協はどうしてもできなかったんです。
「10代の女の子を応援したい」というコンセプトには、ご自身の原体験があるとか?
私自身、学生時代はテニス部で真っ黒になって部活に打ち込んでいました。辛い練習や試合の時、自分を奮い立たせてくれたのが、当時使っていた制汗剤の香りだったんです。
香りって、0.2秒で脳に届くと言われていますよね。その香りを嗅ぐだけで、一瞬で「あの頃の強い自分」に戻れたり、「大丈夫」って思えたりする。いわば「心のお守り」みたいなスイッチになるんです。
今のZ世代の子たちも、SNSがあったり、人間関係が複雑だったり、私たちの時代とは違う生きづらさを抱えているかもしれません。そんな彼女たちの日常に、そっと寄り添う「応援歌」のような香りを作りたかった。 かつての私が香りに救われたように、今度は私が、次の世代の子たちにバトンを渡したかったのかもしれません。
一人で経営されているとは思えないほど、多くの人を巻き込んでいますね。人付き合いで大切にしていることは?
実は私、チームプレーや競争があまり得意なタイプではないんです(笑)。誰かとポジションを争うよりも、自分自身と向き合っている方が性に合っているというか。
だから、営業や人脈作りでも「何かを得よう」とはあまり考えていないんです。ただ、目の前の人が素敵だなと思ったら、「この人とあの人が出会ったら、もっと素敵なことが起きそうだな」と直感で繋いだり、頼まれごとは「Yes」から始めたり。
それはきっと、祖父や父の影響があると思います。私の実家は岡山で、祖父は町長を務めるなど、地域貢献を大切にする家系でした。「困っている人がいたら助ける」「地域に恩返しをする」。そんな背中を見て育ったので、**自分の利益よりも先に「誰かの役に立つこと」**を考えるのが自然になっているのかもしれません。
結果的に、そうして繋いだご縁が回り回って、百貨店でのポップアップや新しいお仕事として私のもとに帰ってきてくれている気がします。
変化の激しい起業の世界で、どうやって自分の心を保っているのですか?
私がライバルにしているのは、常に「昨日の自分」です。 昨日できなかったことが、今日できるようになった。知らなかったことを、今日知ることができた。その小さな成長の積み重ねが、「今の自分、ちょっといいな」という自信に繋がっています。
自分の機嫌は自分で取って、自分で自分を認めてあげる。そうやって、楽しみながら走り続ける姿を見せることが、ブランドの明るいエネルギーにもなると信じています。
これから、このブランドをどう育てていきたいですか?
今はまだ生まれたばかりの赤ちゃんのようなブランドですが、これからは「キャラクター」という新しい命も吹き込んでいきたいと考えています。
「ゆめたん」と「ももぴ」というキャラクターを通じて、ただの商品としてではなく、人格を持った存在として愛されたらいいなと。女子高生のスクールバッグにぬいぐるみが付いていて、そこからふんわり良い香りがする……そんな未来を想像するとワクワクします。
そしていつかは、私のルーツである岡山に恩返しがしたいですね。岡山の桃や、デニム、和紙など、地元の素晴らしい素材とコラボレーションして、故郷の良さを発信できるようなブランドになりたい。
私の「分身」であるこのブランドが、私よりも長く、広く、たくさんの人に愛されて、幸せを運んでくれる存在になるまで。 母のような気持ちで、大切に、大切に育てていきたいと思っています。